プロテアーゼ阻害剤

プロテアーゼ阻害剤(PI=Protease Inhibitor)は1995年末に登場してから今日(2008年6月現在)までに、以下の8種類が認可され使用されている。

  • saquinavir(SQV)
  • ritonavir(RTV)
  • indinavir(IDV)
  • nelfinavir(NFV)
  • fosamprenavir(FPV)
  • lopinavir(LPV)
  • atazanavir(ATV)
  • darunavir(DRV)

最初に登場した3つのプロテアーゼ阻害剤SQVRTVIDVは、それぞれ異なる開発戦略から生み出された。

SQVはphenylalanine-prolineを模倣したhydroxyethylamine isosteres構造を持つ薬剤である。

これはGag p17-p24、Pol p6*-protease, protease-RT間の切断部に見るTyrosine/Phenylalanine-Proline配列がHIV-1プロテアーゼに特異的で、哺乳類のアスパラティックプロテアーゼでは認識・切断できないことを応用したものである。

これに対して開発の基盤となったのは、同じアスパラティックプロテアーゼであるレニンに対する薬剤開発戦略である。

レニン阻害剤開発では本来の基質を模倣した化合物を阻害剤の候補としたが、HIV-1プロテアーゼにおいても同様に本来の基質であるGagタンパクの切断配列を模倣した化合物が取り上げられた。

その結果hydroxyethylamine isosteres構造を持つ化合物IDVが生み出された。

このように1995年末から1996年にかけて登場したプロテアーゼ阻害剤のうち、SQVIDVの2化合物は開発戦略が異なっていたにもかかわらず、いずれもhydroxyethylamine isosteres構造をもつ化合物にたどり着いたことは興味深いことである。

これに対してRTVは結晶構造解析から得られたプロテアーゼ活性中心部の構造を基に設計された薬剤である。

プロテアーゼの基質を結合するS1-S1’が活性中心に対して対称構造をとっていることから、切断部を境にP1-P1’に相当する部位が対称になるように薬剤の設計が行われた。

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これ以降のプロテアーゼ阻害剤は大まかにSQVIDVのhydroxyethylamine isosteres系とRTVのsymmetrical inhibitor系の2つに分類することができる。初期の3剤の登場以降、新たなプロテアーゼ阻害剤の開発には、

  • 高い経口吸収性
  • 長い血中半減期
  • 低いタンパク結合率
  • 交叉耐性のない薬剤耐性プロファイル

が求められるようになった。

1997年に登場したNFVは、SQVとC末側半分は全く同じ構造をもつ薬剤である。

SQVとの違いはN末側の構造を小さくしたことであり、これにより経口吸収性の改善に成功した。また他のプロテアーゼ阻害剤とは異なるNFVに特有の耐性変異D30NとN88Dを誘導することとなった。

FPVAPV(amprenavir)もまたhydroxyethylamine isosteres系列の薬剤である。

まず1999年にAPVが認可されたが、経口吸収性に問題があり、あまり使用されなかった。

2004年になり経口吸収性を改善させたpro-drugのFPVが登場した。

FPVは腸管上皮においてalkaline phosphataseにより、APVに変換されて吸収される。

LPVRTVが基になって作り出された薬剤である。

開発に当たってはRTVの耐性変異である82番の変異誘導を回避する様に設計された。

その結果LPVは特異的な耐性変異を誘導せず、耐性変異の集積数が耐性度を左右するユニークな薬剤耐性プロファイルを持っている。

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最近登場してきたのがATVであり、ATVRTVLPV同様にP1-P1’の対称性を念頭に開発された薬剤である。

ATVは大変優れた経口吸収性を示し、血中の薬剤半減期も長いことから、1日1回の服用が可能な薬剤である。

また薬剤耐性HIV-1のプロファイルも既存のPIとは異なり、初回治療に失敗した症例ではI50Lが100%の確率で認められた。

I50LはATVに特徴的な変異であり、他のPIに対してはほとんど影響しないことが知られている。

また1~2剤のPIに対して耐性を獲得したウイルスであれば、十分ATVの効果が期待される。

最近登場したDRVは、bis- THFとsulfonamide isostereを基本構造にもつAPVと構造学的に類似しており、既存のPIが効かない多剤耐性を示すウイルスに対しても高い抗ウイルス効果を示す薬剤である。Koh Y, 2003 ;De Meyer S, 2005

DRVのbis-THFはプロテアーゼ活性中心のAsp29とAsp30に強固に結合し、その結合親和性は既存のPIより約100倍も高いとの報告もある。Dierynck I, 2007

この活性中心への高親和性がDRVの耐性変異の誘導を極めて低くしていると考えられている。

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