
HIV-1は、免疫を担うCD4陽性リンパ球に感染して増殖し、さらに感染したリンパ球を破壊する。CD4陽性リンパ球の数が減少すると免疫力が低下するため、日和見感染症など様々な症状が現れる。この状態をAIDSと呼ぶ。未治療の場合、一般的に約10年でAIDSを発症すると言われている。
HIV-1は、感染した細胞の染色体にウイルス自身の遺伝子を組み込む特徴を持っているため、感染した細胞が生存する限り新たなウイルスが複製され続ける。
現在治療に使用されている抗HIV薬は、新たなウイルスの増殖を抑制することで、CD4陽性リンパ球の数が減少しないようにしている。
今日人類最大の脅威となりつつある感染症であるこのHIV/AIDSの歴史は実のところまだ浅く、僅か30年にも満たない。
1981年にCDCのMMWRに掲載された、米国ロサンゼルスとニューヨークの男性同性愛者57名に認められた原因不明の進行性免疫不全を伴ったカリニ肺炎症例の報告が、HIV/AIDSとの戦いの始まりである。
最初の報告からしばらくして、研究者たちはAIDSが感染症であることに気が付き、程なくフランスのリュック・モンタニエ博士と米国のロバート・ギャロ博士により、AIDSを引き起こす原因ウイルスHIV-1が同定された。なお、この業績によりモンタニエ博士は2008年にノーベル医学生理学賞を受賞している。
現在までに、全世界で累計2,000万人以上がAIDSに関連した疾患で亡くなっており、2007年末時点では推計3,320万人がHIVに感染していると報告されている。(UNAIDS, 「AIDS epidemic update December 2007」)
わが国では、2009年3月現在、AIDS患者は5,024人、HIV感染者は10,788人と報告されている(厚生労働省エイズ動向委員会報告)。感染患者の報告は毎年増加傾向にあり、深刻な状況となっている。
HIV-1の起源はアフリカ西~南部に生息する霊長類に感染するSimian Immunodeficiency Virus(SIV)であると、その遺伝子配列解析から考えられている。
ヒトが密林を伐採して生活圏を広げるにつれて、SIVの宿主である霊長類と接触する機会(愛玩動物として、また食料として)が増えたため、ある時ヒトに感染する能力を獲得し、以降、ヒトに適応していったと考えられている。
ではHIV/AIDSがヒトに感染するようになったのはいつ頃なのであろうか?
この感染症が顕在化し我々がそれを認識したのは前述したとおり1981年であるが、当然のことながらこの報告以前に、HIVは既にヒトに感染していたと考えられる。
HIV-1の感染成立からAIDS発症までの平均期間が10年とされていることから、MMWRの報告にある57名のうち何人かは、1971年前後には感染していたであろう。
現在HIV-1感染が確認されている最古の症例は、1959年にアフリカで採取された血清サンプルである。
また過去の症例報告を探索していくと、HIV-1が強く疑われる免疫不全症例の報告が1959年にLancetに掲載されていることが知られており、この時代には既にある程度のHIV-1感染者がいたと推測される。
面白い研究としては現代のHIV-1遺伝子配列のばらつきを基に、仮想上のHIV-1祖先配列とその出現時期を算出した報告があり、それによるとHIV-1の始まりは1931年頃と推定されている。